12 挫折

処方された薬はマズいが、これでやっと治ると信じていたので、
どんなにマズい薬でも飲み続けられると思っていたが、3ヶ月で挫折した。

診察に行く度、

聴力検査の結果は変わらないが、
そんなに悪いわけでもない。
低音が聞こえないのも個性といえば個性だが、
自分では聞こえは良くなっているのかな?

と先生に聞かれたが、

良くなってきている気がする、

と私は答えていた。

そのため、処方箋は3ヶ月間変わらなかった。

前にも書いたが、聞こえの感覚は繊細なもので、
日によって、環境によって、
詰まった感じが強い日と弱い日があった。
良くなっている、と感じる日もあった。

いや、良くなっていると感じたかったのだと思う。
ようやく辿りついた遠方のこの病院で、
マズい薬も飲んでいるのだから良い結果を出したかった。

また、この病院で治療している間に平衡感覚は戻っていた。

先生が、毎回、私に目をつむり足踏みさせて確認されていたが、
ほぼ同じ方向を向いて足踏みできるようになっていた。

良くなってきている、と思える出来事だった。

後に分かる事だか、
聴神経腫瘍が原因で、右の前庭神経が機能しなくなり、
一時的に平衡感覚が低下しても、左の前庭神経が機能していれば、
左の前庭神経が鍛えられて右側の不足分を補い、平衡感覚が戻るとのこと。

私の平衡感覚が戻ったのは、そのためのようだ。

この頃、自覚症状が出てから半年が経とうとしていた。